漫画コラム

漫画のごはん

 「美味しんぼ」以来、何やら知らぬ間に色んな雑誌で「料理マンガ」というジャンルが成立してしまっているのである。
 で、どの作家の描く「ごはん」が一番おいしそうか?ということを考えてみた。
 格付けはおいしくなさそうな方から★〜★★★で表すことにする。では、星一つから。

<★:全く食欲をそそられない>

*牛次郎・ビッグ錠/「包丁人味平」「一本包丁満太郎」
 とにかくこの人の描線は泥臭くて、およそ食べ物を描くに向いているとは言い難い。はっきり言ってしまえば何か汚い感じがするのである。「包丁人味平」の頃など、幼児心にも「食ったら腹こわしそう」と思い、読んでいても味勝負どころではなかった記憶がある。
 それに加えて、作る料理が
・ドラム缶でスープを作り(スープは一度に沢山取った方が美味しいから…らしいが、ドラム缶ってもともと重油とかコールタールとか入ってるんですけど。)、足で麺生地を打った「味平ラーメン」
麻薬入り(オイオイ)の「ブラックカレー」(鼻田幸吉・作)
・本当は塩味が足りなかったのだが、偶然味平の汗が入って絶妙の味になった(オイオイオイオイ)「潮汁」
 だもんなあ。読みながら「私ゃ食わんでいいわ。」という感を強くしたのであった。

*西条真二/「鉄鍋のジャン!」
 この絵は「汚い」とは言わん。作画だって頑張っていると思う。
 ただ、頑張りすぎ(トーンワーク気張りすぎ?)のせいか、妙に料理が生々しい…というか、野菜炒めの筈なのに、生肉か臓物みたいな絵ヅラで、何やら凶悪な料理(主人公のキャラのせいか?)に見えるときが多いと思う。時々とんでもない食材使ってるしな。

*望月三起也/「ワイルド7」
 望月先生の描線も、あまり食物には向いていないと思う。
 というよりも、主人公が敵に捕まって、土やら小便にまみれた食い物を突き出され、それを食わされるという屈辱的なシーンが何度か出る(それを「今はどんな屈辱に耐えてでも生き延びてみせる!」と言って食うワケね。ああワイルド)のだが、そのイメージが強すぎるせいかもしれない。
 また、お見舞いでケーキや果物をもらった善人が惨殺されたりするパターンが多いせいかもしれない。
 いずれも、一度受けたトラウマが警戒を生んでしまう例である。

*工藤かずや/「ザ・シェフ」
 この作品も、全然料理がうまそうではない。
 というより、主人公があまりにもブラックジャックに酷似しているため、読んでる方は料理どころじゃないのだ!

*「ポパイ」のほうれん草缶詰
 だって、ペースト状だし。おひたし人種にはちょっと。

<★★:可もなく不可もなく>

*雁屋哲・花咲アキラ/「美味しんぼ」
*うえやまとち/「クッキングパパ」
*寺沢大介/「ミスター味っ子」「将太の寿司」

 メジャーどころが★二つは意外?
 この三つ、いずれも凄く律儀な線で料理が描かれていて、文句はないけど、特にそそられないので。
 また、「美味しんぼ」では、素材が高級すぎたり、希少(「本物の○○」って奴ね)過ぎたりして、味がイメージできない事が多い。
 「味っ子」も、TV版と打って変わって描写が普通なので、何やらほっとする。(お茶漬けが光ったりしない、という意味ね。)

*手塚治虫/「ジャングル大帝」
 さて、神様だが、「食い物」の描き方はえらく記号的で、特筆すべきものはない。
 ただ、この間TVでやっていた「ジャングル大帝」劇場版でのこと。
 レオが皆からキチガ○扱い(そこの台詞はカットされてたぞ)されつつ、畑を作り、「これでみんな、友達を食べなくても済むようになるよ!」と言っていた。「この手の動物もので補食関係を明らかにしてはならない」というのは「サルまん」でも言及されてはいたが、レオよ、ウソはいかん、ウソは

*赤塚不二夫/「おそ松くん」→チビ太のおでん
 住んでいる地域にあの「串おでん」がないせいか、また、チビ太がしょっちゅう持ってはいるが、案外食うシーンが少ないためか、意外に食欲をそそられない。

<★★★:思わず同じ物を食いたくなる!>

*園山俊二/「はじめ人間ギャートルズ」→あの肉
 あの!年輪状のマンモスの肉(ちょっと毛が残っている)!ぜひ一度食ってみたいと思っても、もうマンモスはいないって。

*「トムとジェリー」/穴ぼこチーズ
 当時出回っていたチーズは、プロセスチーズばかり。カマンベールやモツァレラなんて、金持ちですら知らなかった。そんな中で、あのチーズは何とも美味そうだったのさ。

*村上もとか/「水に犬」→タイ料理
 これは、絵そのものもそうだけど、主人公たちの食いっぷりがいいのね。いっぺん読んでみてくれ。

*石ノ森章太郎/TV旧版「がんばれ!ロボコン」→ガソリン
 いや、人間の身で飲もうとは思わないけれども。ロボコンがガソリンを飲む様子がすごくおいしそうだった。新しい方は飲まないのでちょっと遺憾。

*「アルプスの少女ハイジ」→白パン
 これはもう説明不要でしょう。すごく柔らかそうで、給食で出る食パンやらコッペパンとは次元の違うものに見えた。
 次点として「ヤギの乳」があるが、母曰く「青臭くておいしくない」んだって。

*松本零士/全作品→ラーメン・ビフテキその他
 主人公が大体貧乏で、バイタリティに溢れているせいだろうか?何故か松本作品の「ごはん」はいやに美味しそうだ。(特に四畳半系)
 「食べる」ということを「生きるための力」として、もっとも強く捕らえている作家だと思う。(同時代の筈の石ノ森先生は、結構淡々とした描き方をしている。だから単に年代的なものではないだろう。)
 999の食堂車で出てくるビフテキ(決して「ステーキ」なんぞではない!)、鉄郎が「人間として最後の食事」に選んだ、ちょっと伸び加減に見えるラーメン、アルカディア号でオバちゃんが作る何だかわからない「ゴハン」、酒渡先生やミーメが飲む日本酒、あろうことかサルマタケさえも何か美味そうなのだ!
 特に「縦だか横だか分からんようなビフテキが食いたい」という台詞が忘れられないのだ。じゅる。

*水島新司/「ドカベン」→サンマ
 山田君ちは貧乏なので、サンマ一匹を家族三人で分けていた時期もあった。
 サッちゃんが庭先で、七輪で大事そうに焼くサンマ。岩鬼もこれが大好きだった。
 秋に「ドカベン」を読もうもんなら、その日の夕食はサンマで決まりだ。

*杉浦茂/「猿飛佐助」→おまんじゅう、コロッケ
 この、単純だけど何だかわからんフォルムの描線で描かれる「おまんじゅう」が、妙に柔らかくて美味そうなのだ!その他、「おにぎり」やらコロッケ(「コロッケ五円の助」という名キャラがいるのだ)が、なぜだかおいしそうでならない。
 この作品自体知らない(人の方が多いに違いない)人は、ちくま文庫で出ているので、是非その目で確かめてくれ!

(了/1999.8.19)