男樹語彙の基礎知識

もとはといえば、銀輪さんがお寄せ下さった「ちんちん焼き」なる商品の写真が始まりだった。

「そういえば、何故にアレのことを『ちんちん』と呼ぶのだろう?」

 ふと疑問に思った私は早速、愛用の「日本国語大辞典」(小学館)に当たってみた。これは現職時代に買った物で、語源や派生について詳しく述べられており、用例なども豊富。何故か引退してからの方が役に立っている、なかなか「使える」ブツである。
 結果、その語源についてはなんら触れられていなかったが、その言葉が様々な意味を示し、なおかつ膨大な派生語を産んでいることに腰を抜かした。なもんで、一人の胸に秘めておくのはいかにも勿体ないのでここに(あくまで学術風味で)整理してみる次第である。
【注】:方言の場合は()内に地域を記した。
    <>内は用例及びその出典。”#”以下の青字は個人的ツッコミ。

  1. 動物

    小鳥の総称(静岡県)
    →「ちんちんめ」(茨城県久慈郡)
    すずめ(茨城県稲敷郡・埼玉県秩父・長崎県北松浦郡)
    →「ちんちんめ」(栃木県芳賀郡)
    →「ちんちんこ」(千葉県安房郡)
    頬白(長崎県南高来郡・大阪府泉北郡・鹿児島県種子島)
    →「ちんちんすずめ(壱岐島武生水)」
    アオジ(千葉県山武郡・奈良県北葛城郡・宮崎県・長崎市平戸)
    セキレイ(青森県三戸郡・長崎県・静岡県・愛媛県)
    →「ちんちんどり」(青森県津軽・岩手県気仙郡・岐阜県武儀郡・香川県・愛媛県宇和島)
    →「ちんちんかあら」(岩手県九戸)
    ヒバリ(奄美大島)
    →「ちんちんなあ」(沖縄県石垣島)
         日本各地に、種の相違はあれど、「身近な小鳥の総称」として用いられていることが分かる。
         スズメ焼きを「ちんちん焼き」と呼ぶ由来であろう。

    クロダイの幼いもの
    これは釣り人にはおなじみの言葉。
    クロダイをまた「チヌ」と呼ぶが、そこから派生した「ちんの魚」という呼び方があり、そこから来たものか?
    「小さいもの」「子ども」の意での「ちん」の用法があるので、「子どものチヌ」の意かもしれない。

  2. 植物
    ちんちんかずら=カミエビ(美作方言)<本草綱目> #18禁アニメ(淫獣系)には定番の「触手」みたいですな。
    →「ちんちんこう」(岡山県苫田郡)
    ちんちんぐさ=カタバミ(岡山県児島郡・香川県瀬井島)
    →「ちんちんもぐさ」(佐渡) #とてつもなく熱そう。
    ちんちんばな=ヒメウズ

  3. 遊び
     これはいずれも、「片足を少し上げ、一方の片方で軽く跳ねる動作。片足飛び」の遊戯を示す。いわゆる「けんけん」「ケンパ遊び」のこと。おそらく「チンバ」からの派生と思われる。
    ちんちんかたかた(奈良県吉野郡)
    ちんちんがら(三重県尾鷲)
    ちんちんごいよ(和歌山市)
    ちんちんこまこま(神奈川県愛甲郡)
    ちんちんちが
    ちんちんもがもが #語感が凄すぎる。
    ちんちんもがら
    ちんちんもぐら #中野貴夫監督の「海底強姦」みたいである。
    ちんちんもぐらこ
    ちんちんもんがら
    等々、様々なバリエーションがある。
  4. 副詞
  5. 嫉妬・やきもち
  6. 男女の情交が睦まじい様、性行為(をすること)

<付記>

で、結局語源は分からなかったのだが、こっちのほうの語源は幾つか書いてあったので抜き出してみる。
「ちんぼ」【名】(「ちんぽ」とも)
 1.陰茎のこと。多く子どものそれを指して言う。
 2.男の子のこと。
<語源説>
(1)チヒサキホ(小穂)の義か。<名言通>
(2)チヒボフシ(小法師)の略訛<上方語源辞典>
(3)チホの訛り。チは男の陽の意<俗語考>
(4)チンは子どもの性器を言うシジ(似指)からで、指に似て小さい意。ボは「鉾」の義<暉峻康隆 「すらんぐ」>
#どっちにしても、元来は「子どものもの」「小さいもの」を指していうようだ。へー。
ついでに派生語も書いておく。
ちんぼうきり
(人が水中に入ると陰茎に食いつくとされていることから)「ヤゴ」のこと。
ちんぼごおり(静岡県・三重県志摩郡・広島県)
氷柱。つらら。
→「ちんぼっこおり」(長野県佐久) #もはや何語だか見当が付かないあたりがヨイ。
ちんぼ(茨城県猿島郡・栃木県河内郡)
乳・乳房。
#栃木県河内郡では、「ちんこ」も乳房を指すそうな。紛らわしいなあ。

 ふー、何だか連発しているうちに、妙に毒気が抜けて参りました(笑)。私は別にここの学会員でもなんでもないんですがね(笑)〜。
 自然界や人の暮らしの中に、思ったよりも深く入り込んでいる言葉だということが、調べてみて分かりました。
 と無難にまとめておいて、今回はシメ。