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八百八町表裏化粧師(はっぴゃくやちょう ひょうりの けわいし) 石ノ森章太郎
小学館 スーパービジュアルコミックス 正・続(全2) 本体¥680
メディアファクトリー SHOTARO WORLD版 全3

〜化粧のいいところは 他人をハッとさせるところだが…
   どうかするってェと 自分もハッとなることがあるンだ…〜

 式亭小三馬は、戯作者・式亭三馬の息子。
 亡き父のように世間を楽しませる文才には恵まれなかったが、その代わりに化粧品店「式亭正舗」の商いで大活躍。
 「式亭正舗」は化粧品ばかりでなく、広告代理店の前身である「弘め屋」として、プランニングにマーケティング、イベントクリエイトまで手広く手がける。小三馬自身も、ある時はメイクアップアーティスト、スタイリスト、プランナーにコピーライター…と八面六臂のマルチぶりを発揮する。そんな彼のモットーは、「江戸中の女性はもちろん、みんなの心と世の中を楽しく、明るく、美しく装う」こと。毎回ちょっとしたからくりを使って、人の心に自信を持たせ、自分の力で自分の魅力を勝ち取らせるエピソードはなかなか爽快である。

 もちろん、江戸の風俗や生活文化を上手く取り込み、同時にさりげない季節感をしっかり醸しだし、確かな描写で江戸情緒を演出する巧みさは、名作「佐武と市捕物控」より変わらず。ジャンルがジャンルだけに、ファッションの蘊蓄が豊富で楽しめる。昔の白粉化粧って手間がかかったのね(^^;)。

 後半は、「倹約」の名の元に改革を押し進める老中・水野忠成が登場。清廉潔白の仮面の下で、巧みに庶民と政道を食い物にする悪役である。小三馬の才覚を認め、弱みを握って自分の側に付けようとする水野と、無理難題をうまくこなす小三馬の化かし合いが続くが、最終的に引き入れられないと悟った水野とは決裂する。 黒幕を敵に回した小三馬の運命やいかに?

 清濁併せ呑みつつも志を失わず、軽妙洒脱な小三馬のキャラクターにイヤミがなく、すっきりまとまった中編。「佐武市」とはまた違った魅力がある。
 かつて「ギミア・ぶれいく」の中でアニメ化された。

<正:1990.10.15/続:1990.11.15>