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本土決算〜よみがえる日本〜 志野靖史
祥伝社(ハードカバー単行本) 本体¥1,238

〜阿南くん可能です、易くはないが可能です。
  本土決戦の心持ちで“本土決算”をやりぬけば〜

 言うなれば「仮想戦記」ならぬ「仮想戦後史」。(むしろ「戦後黒歴史」とでも言うべきか)
 しかし大胆なウソの中にもリアルな史実と政治史秘話などを織り交ぜ、結果的に綴り出される歴史が正しいあたりが巧妙。

 まさに終焉を迎えようとしている太平洋戦争。無条件降伏か本土決算か?揺れる議場で時の内閣総理大臣・鈴木貫太郎は「本土決算」を提唱する。「一人でも多く生き残り働き抜いて、いつの日かアメリカを凌駕する経済国家となる」遠大な計画である。
 すぐ後にやってくる憲法改正。アメリカのお仕着せ案を叩き返し、吉田茂は「大日本帝国憲法の“天皇”を“日本経済”に置き換える」というアグレッシブすぎる案を挙げる。
 かくして、
「大日本帝国ハ日本経済之ヲ統治ス/日本経済ハ神聖ニシテ侵スベカラズ」
 という、この上なく力強い新憲法が誕生する…

 こんな「虚」と「実」が目まぐるしく入れ替わりつつ、所得倍増、列島改造から平成不況にいたる日本社会と経済の歩んできた道を読み直す物語。笑って読んだ後に、実は色々考えさせられてしまう。これほどの力技の中に、時にペーソスまでも盛り込む作者の技量に舌を巻く。

<1999.11.5>