- オフィス北極星(オフィス・ノーススター) 作:真刈信二/画:中山昌亮
講談社 モーニングKC全10
〜女に誘われてそんな目をしている……普通いないわそんな男。
そんな目で見られた人間は…自分は本当のところ何者なのか……思い知ることになるわ。
ペルシャじゃ「北極星の目」っていうの。
北極星は旅人に道を教えてくれる……でも自分の道は誰にも聞けない…〜
主人公・「ゴー」こと時田強士は、日本の保険会社社員としてリスクマネージメントに携わり、長年アメリカで勤め上げ、裁判社会アメリカを知り尽くした男である。しかし、起訴されてなおも「日本式」のやり方に固執して、アメリカの実情に目を向けない上司や日本企業の愚かな頑なさにため息の日々だった。
そんな案件を抱えていたある日、運命的に出会ったベリーダンサー・シャーのアドバイスにより、フリーランスとしてオフィスを立ち上げる決意に至るゴー。そのオフィスこそが「オフィス・ノーススター」。
日本企業にとどまらず、アメリカの現実と光と影をすり抜け、絶対不利な状況をひっくり返す驚異のリスクマネージメント・ドラマ。連載当初は「PL法」の概念が日本で出始めた頃であったことを考えると、かなり先駆的でもある。真刈信二の原作と、独特で力のある中山昌亮が幸福な縁を結んだ傑作。「クレーマー」が跋扈する現在に読むと、また面白い。
冒頭に挙げたシャーの言葉のとおり、ゴーの周りには優秀なパートナーや弁護士が現れ、ゴーと事件に関わることで自分の進む道を悟り、結果的にゴーから離れて道を歩んでゆく。そんな寂寥感と、それを吹き飛ばすキャラクターの回転もまた魅力。
<CASE1:電話機のノイズ>
シャーの占いに従って、和解案を選択したゴー。しかし極東火災海上保険とクライアントはその意味を悟ろうとせず、面子のダメージだけを重んじてゴーを責める。辞表を叩きつけ、オフィスを開くゴー。彼のもとにパートナー志望の女性・サムが面接に訪れる。彼女もまたゴーの目に大いに惹かれ、パートナーとなる。
オフィス北極星の初仕事は、日本のメーカー・ミワ電機。コードレス電話の子機使用によって難聴になったというクレームがいくつも殺到し、裁判になる寸前という状況。被害者のほとんどは、子機をパワーアップさせて豪邸で使っている富豪ばかり。「逆転」の手がかりをつかむためにゴーが訪れたのは、伝説の弁護士・ミスタージーン。導いた「ベターな結論」とは…
<CASE2:砂の匂い>
日本の小さな町工場が作った電動缶切りは傑作だった。しかしそれを使用したある男性が指を切り落としてしまいメーカーは訴えられるが、工場主は英語の手紙を読めず放置、有罪が確定してしまった。偶然その事件を聞かされたゴーは、誰にも頼まれないのに日本に赴き、協力を申し出る。
今回協力者となるのは、元天才弁護士ながらとある事件で転落してしまった「一匹狼のジョニー」。
一方、八方塞りの状況は、「何の缶を切れば事故が起こるのか」を求めて繰り返した実験により風穴が開く。有罪逆転はなるか、そして天才・ジョニーの復活はいかに?
<CASE3:ロバの頭>
ゴーはかつての旧友・石上を訪ねる。石上は「THE HOTEL」と大文字で書けばそのホテルを指すといわれる大ホテル「ザ・ブロントン」の支配人を勤めていた。しかしほどなく、ブロントンは企業秘密漏洩で告発され、巨額な賠償金を支払うことに。そして石上は責任を取って自殺。
友を死に追いやった原告は、天才プログラマーのケビン・シャーウッド。偶然出会った天才少年の力を借りて彼とのコンタクトには成功。シャーウッドの不自然な告発の背景を追い、突き止めた事実はあまりにも切ないものだった。
<CASE4:ドクター・アラモ>
これまでのドクターとの契約が切れ、ゴーは新しい主治医を探さなければならなくなった。そんな日に出会ったドクター・ノグチは、保険も金もなくても診療してくれる医師だった。貧乏人たちの自主的な供出で原始的な医療保険の仕組みを作り、闇ルートの医薬品で献身的に医療行為を行うノグチとゴーは意気投合、早速契約を結ぶ。彼はサムの友人・リェンの危機をも救うが、その恋人から医療過誤で告発を受ける。医療過誤の賠償責任保険に加入していないドクターに勝ち目は内科に思われたが…「アメリカ精神」と「アラモ」を語るバーバラの最終弁論が見事。
<CASE5:ベジタリアンズ>
前エピソードで、学業に専念する決心をし、オフィスを去ったサム。面接に訪れた2人の女性は才色兼備・すこぶる有能、エコロジストでベジタリアン。魂の結び合ったレズビアンである彼女らの要求はたった一つ、「2人を一緒に雇ってくれること」。ゴーが条件を飲むと素晴らしい働きを見せる彼女達。オフィス北極星がアプローチした大財閥の社長・クラヴィス・ホイットニーは一つの訴訟を抱えていた。彼女の告発する相手は、バーバラが不本意ながらも弁護を担当することになっているイツワUSA。最善のシナリオは、クラヴィスのリスクマネージメント契約を取り付け、なおかつイツワ相手の訴訟を取り下げさせることなのだが…
<CASE6:2つのドガ>
クラヴィスの祖父の美術コレクションを公開する美術館がオープンの開きとなった。コレクションの下見に同伴したゴーは、ドガの踊り子の絵をどこかで見た記憶があった。それもそのはず、その絵はゴーの元職場・極東海上火災の社屋にかけられていたもの。ということはどちらかが偽物ということになる。絵画を買い取るために古巣へ赴くゴー。そしてその絵はホイットニーにとって何者にも変えがたい思い出の一枚。最終的に美術館の壁にかけられるのはどっち?
<CASE7:5%の法則>
かつて裁判で負かした相手、イツワUSAの前社長・ヤマダがオフィスを訪れた。イツワは現在、ダンピング疑惑で大揺れしているが、会社では例によって公正に対応する気はない模様。しかし意外にもヤマダの口からは、この件の揉み消しではなく、本社のやり方と体質を変えるように嘆願された。ヤマダとイツワを嫌うバーバラは最初難渋を示すが、このダンピング裁判を切り抜けるために尽力する。勝ち目のない訴訟への切り口、そして切り札であるヤマダの証言は…
<CASE8:日本人の孤独>
日本人商社マン・イノウエの息子クリスは、父母を相手取って100万ドルもの損害賠償請求の告発を行おうとしていた。損害とは、両親の離婚が自分たち兄妹に与えた苦痛。そしてその矛先は、母を麻薬中毒にまで追い込んだ父親に向けられていた。その原因は多忙の他に、「家族愛を言葉に出来ない日本の父」「自分や家族を卑下する日本の美徳」、それがもたらしたギャップが積もり積もったものだった。最初、裁判は内内に行われようとしていたが、クリスはあくまで徹底抗戦を主張する。
<CASE9:マグロの曲線美>
太平洋と大西洋にはさまれたアメリカは、マグロの一大漁業でもある。ゴーはとある日本水産会社のリスクマネージメントを引き受けることになったが、担当者の八木はクセの強い男。不用意な発言で自分のセクハラ裁判に墓穴を掘り、バーバラに黒星をつけてしまうほどの女好き。だがマグロを世界一愛し、知り尽くした男でもある。
一方漁獲によって数が減少したクロマグロを保護しようとする動きは活発になり、クロマグロの輸出禁止法が持ち上がる。あくまでフェアな方法で法案阻止を目指すバーバラとゴー。率直ゆえに危険な八木の存在は、この法廷でどう作用するのか?
<CASE10:誇り高き契約>
ゴーの新パートナーは、ラテン系のワイルド美人・マリア。いつでもどこでもシエスタの習慣を譲れないため職に就けずにいたところに出会った。事務能力は全然だが、その代わり危険を嗅ぎ分ける天性の勘を持つ女性である。
新体制のオフィス北極星は、ゴーの友人・伊達との契約で、投資顧問会社のリスクマネージメントを引き受けることになった。ほどなく微罪で逮捕されるゴー。保釈は容易だったが、その裏の危険な事情が匂って来た。新たなる弁護士パートナー、カルロスと共に真相究明に乗り出すゴーは絶体絶命のピンチに陥るが、崖っぷちにあっても彼は旧友との約束をかたくなに守ろうとする。
<CASE11:天使の懺悔>
日々コンサルティングに励んでも一向に体質を改めない日本企業。最近疲れて沈みがちなゴーを心配して、マリアは「心の病院」に連れて行く。そこはパパ・ルートマンの教会だった。サックスと歌で紙の愛を説き、施設に馴染めなかった子供達を楽しみながら育てるルートマンの言葉に、ゴーも癒される。しかしパパに育てられた娘の一人、ジーンが恋人に唆されて、パパを性的虐待で告発してしまう。更に彼女の懺悔を聞いてしまったせいで、証言すら出来なくなってしまうパパ。彼は法廷でもひたすらジーンを守りつづけ、有罪は揺るがないように思われたが…
1:1994.8.23〜10:1998.12.22