コミック
<さ>


最狂超プロレスファン烈伝 (全4) 徳光康之
講談社 KCデラックス(1〜3) 本体¥417
まんだらけ まんだらけリベンジコミックス(1〜4) 本体¥686


〜「プロレス悪口感知レーダー?!そんなものがあるんですか?!」 「あるッ!!」
  「プロレスの悪口だけを聞き取る…そんな事が出来るんですか?!」
  「できるッ!できるんやからしかたない!!」〜


 主人公・前田日明ファンの「鬼藪 宙道(きやぶ ちゅうどう)」が入部した「闘狂大学プロレス研究会」の部員達の、どーにも止まらない熱い戦いを描く名作。
 登場人物には、必ずその愛するレスラーにまつわる名前が付けられている。

・奥飛 堀三(おくとばす ほるぞう)…猪木ファン
・西等里 熱人(にしらり あつと)…ハンセン及び外人レスラーファン
・十六紋 菊(じゅうろくもん きく)…馬場ファン
・犬土 茶々(けんど ちゃちゃ)…マサみちのく(現・ザ・グレート・サスケ)及びユニバ→みちのくファン
・獏葉 出素待(ばくは ですまち)…大仁田及びFMWファン
等々。

 ここで「ぷッ」とか「ベタだなあ」と思えた人しか、残念だが楽しめないだろう。ストライクゾーンは思い切り狭いが、ツボにはまると抜けられないディープなネタが満載で嬉しくなる。
 また、1〜3巻辺りのネタは、1990年代前半のプロレス界の動きを知っていないと、今となっては分かりづらい部分が多いかもしれない。

 レスリングスタイルやポリシーについて、普段は喧嘩してばかりの部員だが、ひとたびプロレスの悪口を聞けば一致団結して粛正。ある時は気力だけで、「スト2」のザンギエフに(ありもしない)アキレス腱固めを出させるエピソードなど、どれもベッタベタの力押しだが、そこが快感。
 激しい分裂統合が始まった1990年代の状況、それに伴うファン心理などは、流石に著者がコアなファンだけあって、なかなかリアルで面白い。

 3巻が出て5年経ってから、まんだらけから「最狂超プロレスファン烈伝 REVENGE」のタイトルで復刊。
 書き下ろしで、ファンの待ち続けた4巻目が出た。
 その間、分裂が繰り返され様変わりしたプロレス界。現実世界では、マニアックに複雑化した情報をフォローし続けることが出来ずにファンから身を引いた者もいれば、「卒業」の美名のもとに世界そのものを見限った者もいる。
 その中で多少なりとも徳光氏のスタンスも揺らいだのか、4巻では一気にメタ的構成に突入。何と単行本の後ろ半分は鉛筆書きである。作者の率直すぎる弱音も混じり、正直、読んでいてあらゆる意味で辛い。
 この「EVA」を匂わせるメタっぷりに賛否両論はあったが、結局はプロレスへの愛(そして漫画への愛)を捨てきれない思いは伝わってくる。1〜3巻を喜んだ読者なら、やはり見届けるべきかもしれない(まんだらけ版は高いけど(^^;))。

 個人的には、北尾ファンの「上山 決太(かみさん けった)」、長州ファンなのに「戸無 真義(とむ まぎ)」というネーミングに大爆笑させていただいたなー…
1991年12月号〜1993年3月号月刊少年マガジン連載
<1:1992.6.17/2:1993.3.17/3:1994.2.17/4:2000.2.24>


魁!クロマティ高校 野中栄次
(1:黎明編)
講談社 マガジンKC 本体¥390


〜やれんのか やれますよ いつも心は天王山(都立クロマティ高校校歌より)〜

 主人公・神山は、ちょっと気が弱いが勉強が出来て、どちらかというと真面目な風貌の受験生だった。見た目いかにも普通な彼は、不良の友人に「どこに行っても本人次第で勉強は出来る」ということを証明するために、東京都一の不良高校・「都立クロマティ高校」を受験・入学する(ちなみに友人は落第)。
 不良連中にパシリとして扱われながらも、普通の風貌に隠れた天然アホっぷりを余すところなく発揮、ある意味一番バカで最強な男であることを匂わせる。
 同級生達の容赦ないバカぶりも頼もしい。前田・林田のキャラは「課長バカ一代」から引き継がれた。話数を追う毎に、フレディ(謎のマッチョ胸毛外人。本当にクロ高生徒か定かでない。知能はサル以下)、メカ沢(どこから見てもロボットだが、誰もその事に突っ込まない不思議な存在。ちなみにメカは苦手)など、キャラクターの変さがエスカレートしていく様がたまらない。ネタの脱力テンポは相変わらずの野中調。

 初版発売後は全国的にけっこうな品薄状態となりファンをイライラさせた。
 きっと編集部も「売れるまい」と踏んであまり刷らなかったら予想以上に売れたようだ。その売れ行きに、講談社もファンもとまどいを隠せなかった模様(笑)。
週刊少年マガジン 2000年34号〜連載中
<1:2001.2.16>


サトラレ 佐藤マコト
(1)
講談社 モーニングKC 本体¥505


〜だが 彼らはまるみえです。愛さずにはいられないでしょう?〜

 先天性R型脳梁変性症。口に出さなくても感情や思考が周囲50mに伝わってしまう奇病。「サトラレ」とはその持ち主である。1000万人に1人という確率で生まれてくる彼らは、例外なく180以上のIQを持ち、志した道で成功するに足る天性の才能を持っている。
 全世界はサトラレを人類の共有財産として保護することに決定。かつて自分がサトラレであることを知り自殺した者がいたことから、「サトラレにサトラレと気づかせない」ために、専属の公的機関「サトラレ対策機関」が発足、常に数名が警護に当たっている。

 主人公・小松洋子はその警護班の一人。「同じ大学院の同期生」という設定で、サトラレ・西山幸夫の警護に当たっている。猛烈な恋煩いで進まない西山の研究のため、対策機関ではある計画を練るのだが…

 幼いサトラレを育てる家族の心境、もっともサトラレに向かない職業・医師として生きる若きサトラレ、プロ棋士を目指すサトラレの少女……などなど、西山の他のサトラレとその周囲の人間模様を巧みに描きつつ、少しずつ進展する小松と西山の恋愛が描かれる。
 作風は幾分地味だが、丁寧に練りこまれたシナリオと律儀に描かれた画面が魅力。読み飽きない佳作である。

1:新マグナム増刊11〜16号連載分(現在、イブニング誌上にて連載)
初版:2001.2.22