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ストッパー 水島新司
スコラ バーガーコミックス版(絶版)
スコラ SCスペシャル版 全8(絶版)
講談社 講談社漫画文庫版

〜いいかい 確かに心平は草かも知れん!
  じゃがね、草野球でしかない品物を売り方ひとつで プロの値段で売ったんだよ!〜

 三原心平は、水島漫画としてはセオリー破りの主人公である。
 大財閥の次男坊、超進学校出身のエリート、わりと男前、女にも手が早い軽い性格…しかし何よりセオリー破りなのは、ずば抜けた剛速球も素質もあるわけでなく、それ以前に甲子園大会予選さえ通っていない、「一流の実力」とはとても言えないピッチャーであること。
 その彼が、熱血よりも度胸、実力よりもかけひきでプロの世界に飛び込み、心理戦とだましのテクニックを武器にプロ野球界に新風を巻き起こすストーリーがなかなか痛快である。

 心平は、以前スカウトに声をかけてもらったという細いツテだけを頼りに、大阪ガメッツ(東京メッツ同様セ・リーグの架空球団)にドラフト外で入団を企てる。当のスカウト・海老原さえも、都大会三回戦で消えた心平の事など記憶から失せていた。折りしも大型新人ピッチャー・渡をドラフトで引き当てていたものの、入団を拒まれて途方にくれていた海老原は、新平と「渡を説得してくれたら入団させる」と何も期待せずに口約束をする。しかし新平は渡説得にまんまと成功し、ガメッツに入団を果たしてしまう。目指すはストッパーと豪語する心平。
 とはいえ、球が速いわけでも、変化球が切れるわけでもない心平。その凡庸さに興味を引かれる記者・山井、そしてメッツの岩田鉄五郎。見方にも隠して登場した超遅球に山なりボールなど、意表をついたプレーを小出しにして、1軍の登板を乗り切り、一流選手とも渡り合ってしまう。ついには足の速さとトリッキーなプレイを生かして「1番ライトにしてストッパー」という奇妙な位置を確立する心平だが、それでも「これも借りの姿」と嘯く彼の「遠大な計画」とは一体…?

 鉄五郎にとどまらず、国立・日浦・日之本などのメッツレギュラー陣も大勢登場し、「野球狂の詩・外伝」の風味も味わえる本作。特に鉄五郎と度胸とかけひきで一歩も退かない心平との戦いは面白く読める。彼のやり方も間違いなくプロの野球人なのだ。
 また、「野球狂の詩」と「新・野球狂の詩」の間を埋める岩田鉄五郎の物語とも言える本作、あまり語られることが無いのが残念だが必読である。
 個人的には、心平が「遠大な計画」を形にする前の話のほうが面白いような気もするが…いずれにしろ、いい意味で水島新司臭さが無くて、その割にまとまっている。なかなかの意欲作として評価したい。

(SCスペシャル版)1994.9.29(1)〜1995.4.27(8)刊行