コミック
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多羅尾伴内 七つの顔を持つ男 石ノ森章太郎
講談社 マガジンKC版(絶版)
小池書院 道草文庫版(全4巻)

  〜お前にも分かるだろう!愛する者を奪われた悲しみがッ、今こそ分かるだろう!
    じゃからこそ……じゃからこそ−−
     この世に多羅尾伴内が必要なのだッ!!〜


 戦後の和製活劇を代表する名作・多羅尾伴内。
 「ある時は片目の運転手、またある時は…しかしてその実体は!」のセリフは今でこそ「キューティーハニー」の方が有名になってしまったが、本家はこちら。片岡千恵蔵が演じて人気を博した。

 本編では、名探偵多羅尾伴内こと藤村大造は、すでに老いている。
 推理の冴えや変装術の巧みさはそのままでも、体は日一日と衰えていくのを痛感していた。
 自分の探偵術と、そして「愛と正義の使徒」たる心を伝えるにふさわしい二代目を探していた大造は、偶然射撃ツァーで紙袋順平という青年に出会い、彼の体力と知力、そして清濁併せ呑む剛胆さに感嘆し、一方的に彼を「二代目多羅尾伴内」に指名する。
 最初は戸惑い、拒否する順平だが、色々あって大造の深い正義感にうたれ、二代目襲名を決意する。
 ただし、「愛と正義の使徒に自己顕示欲は不要」として「ある時は…」の名乗りだけは断固拒否する順平。すったもんだの挙げ句、一代目と二代目の二人で、無敵の探偵タッグとして事件を解決していくのだが…

 クライマックスで、名乗りを拒み続けた順平が初めて「愛と正義の使徒・藤村大造」を名乗るシーンは最高に燃える。
 逆にそのエピソード以降の2.3編は、正直蛇足の感を否めないのが残念。
 小池一夫と石ノ森章太郎のコラボレーションというのは、今見てみると危険な試みにすら見えるけれども、等身の低い石ノ森のコミカルな線に、意外としっくり納まっている。一読して「石ノ森作品でもあり、小池作品でもある」一編に仕上がっているのは、さすが巨匠の仕事と言うべきか。
 ちなみに、小池作品名物の、「『ん』は全て『ン』と表記する」鉄則はこの作品には当てはまっていない。事前に何らかの協議がなされたのか…などと妄想するのもまた楽しい。
<道草文庫版 1,2:1997.12.1/3,4:1997.12.19>