<色彩編>

●明ぼのや しら魚しろきこと一寸
松尾芭蕉「野ざらし紀行」
●あかしやの金と赤がちるぞえな。
 かはたれの秋の光にちるぞえな。
 片恋のねるの薄着のわがうれひ
 「曳舟」の水のほとりをゆくころを。
 やはらかな君が吐息のちるぞえな。
 あかしやの金と赤がちるぞえな。
北原白秋「片恋」
●忽ち桃花の林に逢う。岸を夾みて数百歩、中に雑樹なく、芳しき草は鮮やかに美しく、落つる英(はなびら)は檳紛たり。
陶淵明「桃花源記」
●プラタナス 夜もみどりなる 夏は来ぬ
石田波郷
●たびびと の め に いたき まで みどり なる
 ついぢ の ひま の なばたけ の いろ
会津谷一「鹿鳴集」
●白き華しろくかがやき赤き花あかき光を放ちゐるところ
斉藤茂吉「赤光」(明治39年)
 
●白鳥はかなしからずやそらのあをうみのあをにもそまず漂ふ
若山牧水
 
●誰も来ないとうがらし赤うなる
種田山頭火
 
●やつと咲いて白い花だつた
種田山頭火
 
●青空はわがアルコールあおむけにわが選ぶ日日わが捨てる夢
寺山修司
 
●雪がはげしく ふりつづける
  雪の白さを こらえながら

  欺きやすい 雪の白さ
  誰もが信じる 雪の白さ
  しんじられている雪は せつない

  どこに 純白な心など あろう
  どこに 汚れぬ雪など あろう

  雪がはげしく ふりつづける
  うわべの白さで 輝きながら
  うわべの白さを こらえながら

  雪は 汚れぬものとして
  いつまでも白いものとして
  空の高みに生まれたのだ
  その悲しみを どうふらそう
吉野弘 合唱組曲「心の四季」より「雪の日に」