花の乱
1996年

 三田佳子演じる日野富子の生涯を描いた作品。
 平均視聴率14.1%は、実に大河ドラマ史上ワースト1。
 しかし!敢えて言おう、これなかなかの名作ッス!
 この頃既に、「安土桃山ものでないと、視聴率的には苦しい」という悪しき定説が出来つつあった。
 さらに、この舞台背景となった南北朝末期〜応仁の乱の時代は、勢力が絡まりあって最もわかりづらい時期。かてて加えて、痛快な活躍をするヒーローも特にいない、と来ている。本編も、複雑な人間関係と縦横の伏線で、1話飛ばすと話に付いていけない部分も確かにあった。全体に沈んだ雰囲気でもあったし。
 応仁の乱は、基本的に同族の争いに端を発してるので、こっちの細川がどっちだったか?日本史上でもややこしい所ですし。

 だがしかーし!国民が飢えと戦で本当に疲弊していたこの時代を描いて、ダークな雰囲気にならない方がおかしいではないですか。
 かてて加えてこの時期は、国政が荒れる一方で、観阿弥・世阿弥が能楽を体系づけ、一揆の相次ぐ中蓮如らが登場、一休禅師が破天荒な生き方をしながら、真の「人が生きる道」を問い続けた時代でもあります。この番組の底に流れ続けていた「幽玄」の雰囲気は、中世日本の呪術的な空気を見事に描き出していたと言えましょう。
 日野富子自身も、どこか「魔女」的な存在でもあったことですし。

 では、キャストを書いていきましょう。

日野富子:三田佳子
富子少女時代:松たか子
(これがデビュー。)

足利義政:市川団十郎
山名宗全:萬屋錦之助
鬼(富子の実父):松本幸四郎
(ってことは、親子競演なのね!!)
日野勝光:草刈正雄
細川勝元:野村万斎
足利義視:佐野史郎
伊吹三郎信綱:役所広司
骨皮道賢:ルー大柴
足利善尚:松岡昌宏
大内義弘:藤岡弘

一休禅師:奥田瑛二
森女:壇ふみ

 応仁の乱を引き起こした「稀代の悪女」と呼ばれる日野富子の生涯を、市川森一が大幅にフィクションを交えて再構築した。
 三田演じる富子は、実は日野家の娘ではなく、「花の庄」で育った娘であった。全盲であった真の富子と交換する形で、富子として生きることになる。
 八代将軍・足利義政の正室となるも、全く愛を受けることはなかった。ここが悲しいところです。人生を操作され、政略結婚をし、周りの誰も信頼できない中で、着々と権力を手中にしていく富子。強くなればなるほど、その孤独さが際だち、それ故にますます強くならねばならない哀しさが、見事に演じられていました。

 物語をアナザーサイドで進めていく役が、奥田瑛二の一休禅師。普通のキャスティングならもっと枯れた人が演るのでしょうが、これはいい配役でした。いいくたびれ具合、生臭具合でした。
 そして、彼に寄り添って旅をする森女(森侍者)の壇ふみ。彼女のストイックな演技は最高でした。キャラクターによく合ってました。森女は実在で、一休禅師の理解者であり、事実上の伴侶であったと言われる人物です。
 で、実は彼女こそが、日野家を追われた「真の富子」だったのです。
 彼女と一休の目から見た、民の側の「応仁」というビジョンが、この作品を非凡なものにしていたと言えます。
 この役、当初は島田陽子が演じるはずだったのですが、海外での映画撮影のため降板、壇ふみの起用は代役だったそうですが、かえってそれが善かったのでは?と個人的には思うのです。

 音楽は三枝成彰。お得意の、幻想的で切ないメロディーが印象に残ります。
 しかも、劇中の主な曲の演奏がショーロクラブ!
 二つまとめて大好きな私には、贅沢な劇伴でした。

 「エイスケさん」役でブレイクする前の野村万斎が、細川勝元を演じています。が、何せ山名宗全がヨロキンですからね。バランス的にはちょっと若かったでしょうか。
 また、佐野史郎が、静かにエキセントリックな演技で足利義視(義政の弟・後に富子と対立)を好演していました。

 また、富子の数少ない心の支えとして、役所広司演じる伊吹三郎がいます。
 この人、三田佳子主演の「いのち」でもパートナー役をやってましたが、これってもしかして三田佳子のオファーかい?いやいや森光子じゃあるまいし・・・
 と、色々邪推して見てました(笑)。

 こうして書いてみればみるほど、やっぱり「大河」としては相当ダークサイドで異質ではありますね。まあ、市川森一好きなので肩持ってる部分もありますけどね。
 どうにも、ハナから視聴率のこと考えてるとも思えませんが、逆にそうとう思うように作れたのではないでしょうか。
 というわけで、「日陰者」扱いされてるこの一本に、光を当ててみました。