ザ・300円岩窟王(1)
皆さんは、アレクサンドル・デュマの名作「モンテ・クリスト伯」をご存知でしょうか。翻案のタイトル「巌窟王」のほうが通りがいいかもしれませんね。
エドモン・ダンテスが繰り広げる復讐劇と人間ドラマは、何度となく映像化・舞台化・リライトされ、また後世のクリエイターを刺激して、「虎よ!虎よ!」や「エリア88」などの作品のプロットに生かされていることでも知られています。
岩波文庫で7冊分という長さ、名作特有のいかめしいイメージで敬遠する方も多いでしょうが、実際読み始めると一気にハマってしまう面白さは古今東西の読者を虜にし続けています。

先日ようやく完訳版を読んだ私は完全にこの作品にハマってしまい、その後Webでいろいろ検索をしたところ、「某100円ショップに置いてある岩窟王(注:「巌窟王」ではないあたりにどーでもよさが漂う)のアニメDVDの内容がえらいことになっている、ほとんど別物だ」という情報を知りました。
早速300円均一のDVDコーナーで買い求めたところ、本当にあまりの別物っぷりに驚愕するとともに、額面以上の爆笑を獲得することができました。

これだけの長い話を、全編50分程度(実際はオープニングやエンドクレジットがあるのでもっと短い)におさめるのですから、どうしたって無理はあります。子供向けですから、できるだけシンプルに、分かりやすくまとめ直し、複雑な歴史や政治の背景、またサブキャラクターを大量にオミットしなければどうにもなりません。それは十分に理解しているつもりですが、なぜかこの「岩窟王」、いろいろなものを大胆に削るのはいいとして、原作のどこにもないオリジナル要素を大胆に取り入れ、しかもそれをメインに話を展開させるというアクロバティックなシナリオになっております。

以下の内容には、多少の原作ネタバレが入っていますので、これから本当のストーリーを読むという方はご注意ください。
一見ディズニー、むしろハンナバーベラのパチモン?という感じの画面ですが、パチモンのそのまたパチモンという感じで本当にクオリティは低いです。フリーで拾ったようなテクスチュアがのっぺりと貼ってあったり、描線も思いっきりギザギザしてたりボケまくってたり、動きも明らかに手抜きだったりと、手間も人手も使ってないのが丸わかりの低予算仕様です。まあ、クオリティを期待する人もいないと思いますが…
制作プロダクションの国籍は不明ですが、とりあえずパッケージによれば、ディスクプリントは台湾で行われているようです。

音声は日本語吹き替えです。声優名等は表記がないのでわかりません。


シリーズ共通のロゴのあと、海面にそびえるシャトー・ディフ城、そしてタイトル。

物も言わず手漕ぎボートを進めていく役人二人。
「なぜ私を連れていくんだ!頼む!教えてくれ!」と憤るこのアゴの男が本編の主人公、エドモン・ダンテス。
いきなりの華のなさに少なからずがっかりですが、後半モンテ・クリスト伯爵となってからオーラを放つか?とか細い期待をしても元がこれなので別にそんなこともないのだった。
ちなみにダンテス、よく声が裏返ります。
役人二人は一言も答えず、黙々と船を(バンク作画で)漕ぐのみ。

場面が切り替わって、ワイン(透過的な表現など一切しないあたりがさすがスリーコインクオリティ)で乾杯するモンデゴ(右)とダングラール(左)。
「ふふふ、エドモンのやつ今頃…どうしてシャトー・ド・イフ城に連れて行かれるか首をかしげていることだろう」
「誰のしわざかも知らずに…これで何もかもうまくいく。乾杯!」

(この作品では、フェルナンはモルセールと名乗らず、最後まで「モンデゴ」と呼ばれている。)

シャトー・ディフに連行されたエドモンは、←の刑務所長?の前に連れだされる。
ちなみにこのDVD、ヴィルフォールは登場しません。一応司法側の人間なのでこれがヴィルフォールのつもりなのか?でも最終的に復讐されずこの場面こっきりの出番なのでやっぱり違うかも。

「そんな!ひどすぎる!これは何かの間違いです!私は何もしていない!」
まあ言っちゃなんだがこの絵も相当ひどいというか、本当におしべ一つない華のなさですな。
所長「フン!無実の者はこのシャトー・ディフ島に絶対送られはせんのだ!おまえは裏切りの罪を犯したのだ!」
エドモン「まさか!私が愛するフランスを裏切るなんて!」
所長「黙れ野良犬!おまえはナポレオンの脱出に手を貸し、祖国フランスを脅かした!おまえは密告されたんだ、見かねた親友にな!裏切り者め!」
なんというアバウトな説明。
エドモンは抵抗するが、密告者の名前を知らされぬまま独房に入れられてしまう。

そして一気に14年の月日が流れ…
あまりのはじめ人間っぷりに、何の原始人アニメのファイルが紛れ込んだのかと一瞬思いましたが、ダンテスです。まあ原作でも髪も髭もボウボウだったので妥当といえば妥当なんだけど。
14年間、ことの真実を何も知らされぬままただ独房で孤独に耐えながら生きていたダンテスの精神は極限状態に達していたらしく、
このままでは!このままでは頭がおかしくなる!」と頭を抱えるダンテスの耳には、投獄された時の所長の声の幻聴が響いていた。
そして壁の向こうから聞こえるカリカリという音も幻聴と思い込み、
「ああ、またあの音が!神様お願いだ、あの音を止めてくれ!」
と取り乱すのだが、それはファリア神父が壁を掘る音だった。

そこだけ分かりやすく塗りの違うレンガが外れて、ファリア神父が顔を出すのだが
原作では叡智の塊のようなファリア神父、いきなり目がイッちゃってます。
ファリア神父「誰かそこにいるかじゃと!面白い!正確にはわしがここにいるから、誰もそこにはいないのじゃ!アッヒャヒャヒャヒャヒャ
いきなりいろいろ不安がよぎるが、「キチガイのふりをしている」のは原作通り。
「悪魔を信じた罪で終身刑になったのじゃよ」
…聖職者がそんな罪に問われて終身刑ですむものだろうか…

ちなみにこの罪については、「冤罪」とは一言も触れられていないのだった。いいのか。
神父さまーー!目玉とれてるー!とれてるー!

神父は自分が10年かけて掘ったトンネルを通じてエドモンを自分の独房に招き入れる。
「やった!これで自由になれる!」と色めいて穴をくぐるも、出た先は当然ながら自分の隣にある神父の独房。
「ああ、また牢屋に戻ってしまった!おしまいだ…!」
ほのかな希望のあとの絶望の落差に、いきなりグッタリと気絶してしまうエドモン。
考えるまでもなく普通察しがつくと思うが。
神父に介抱されて意識を取り戻すダンテス。いろいろとだらしない。
神父に自分の身の上を明かすダンテス。
「船長だった私は、メルセデスという美しい娘と結婚するはずでした…」
このアニメではすでに船長だったらしい。
そこから回想(というか妄想)シーンになり、モンデゴとダングラールが乾杯する冒頭の場面が展開される。

ダングラール「これでやつの物はすべて我々のものに。私はダンテスの船を。」
モンデゴ「そしてこの私はやつの婚約者、美しいメルセデスを頂戴しよう。」


[回想シーン終了]

ファリア神父「誰のしわざかわかっただけ、まだマシというものじゃ」
エドモン「悪党どもめ!…絶対許せん!」

なぜ14年間気付かなかった真犯人とその動機について、何のヒントを与えられたわけでもなく突然悟ってしまうのかものすごい謎なのだが。


エドモンがエキサイトして長話になってしまったため、声で番人に気づかれそうになってしまう。
急いでエドモンを独房に返し、番人をごまかすためにキチガイのふりをするファリア神父。
さあ、ここからスーパー神父タイムの始まりです。

急に愉快げなBGMになる。もちろん神父の口調はキチガイモードで超ファンキーに。

二つの拳を向かい合わせて
『ゲンコツさん!君にそっくりのお友達を紹介してあげよう!』
『うわぁ〜〜本当だあ!まるでウリふたつだねえ!』
『君と僕とは運命の糸で結ばれているんだ♪』


「ア〜ッハッハッハッハ!これは番人さんじゃないか!どうだい?ここの暮らしは満足かい?」

「ところでキャベツは〜〜〜……」
「ところでキャベツは〜〜〜〜 
アッヒャッヒャッハッハ!

大事なことなので2回言ったようです。

「そこの旦那!奥さん!」
「ところでキャベツは! 踊 れ る の か 〜〜 い???!!
もう見ているほうはなすすべなく、ただただされるがままに神父タイムに身を任せるしかありません。

「ティリリリ〜♪タラララ〜♪おひょ〜ふ〜いキョホ〜♪」
頑張ってそれっぽく書いてみましたが実際はとても表記不能な奇声を上げながら、ふしぎなおどりを披露し続ける神父。
「そうじゃ、キャベツだってちゃ〜〜んと踊れるのじゃ〜〜!ホラな!!」

ホラな、とかおっしゃられましても。

ちなみにこの間、たっぷり1分以上。
肝心な場面やキャラクターを割きに割きまくって、筋さえ変えて50分内におさめなければならない中で、この神父のキチガイパフォーマンスを1分以上みっちりと描く、力点を履き違えたコンテこそ狂気の所業というほかはない。そんでここだけ妙に動いてるんだこれが。
さすがに番人に怒られてシュンとなり、心臓が苦しそうなしぐさを交えて床に就く神父。
番人「今度こそ頭のおかしい神父もおしまいかもしれんな、食事でもしながら(死ぬのを)待つとするか」
先ほどのダンスを見る限りそんな体が弱った人にはとても思えないのですが、番人さん…
番人が立ち去ったのを見計らって、トンネルからエドモンが神父の様子をうかがう。
エドモン「神父様、大丈夫ですか?」
ファリア神父「あぁ……わしゃぁもうおしまいじゃ……」

ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ

というわけで、実は本当に体が弱っていた神父は、今際のきわに、穴の奥に隠した小袋の中の、彼の宝をエドモンに託すのだった。
この辺の唐突さは、「すごいよ!マサルさん」の↓のシーンを髣髴とさせるものが無きにしもあらず。

(本当にこのくらい唐突です)
えーとですな、原作・あるいはまともなリライト版を読まれたことのある方は、すでに先ほどのダンシング神父で十分に腰が引けるかリタイアしてしまってると思いますが、300円巌窟王の超展開はここからが本番なのです。
神父から言われるままに袋の中から取り出したのは、昔懐かし指輪ドロップ(今もあるけど)にそっくりなエメラルドの指輪。申し訳程度の白ぼかしエフェクトと、気まずい放射線でも出てるような「ミヨミヨミヨミヨ」というSEを放っています。

ファリア神父「その指輪のおかげで、わしゃ大金持ちになれたのじゃよ。それも伯爵にな。そのモンテ・クリストのエメラルドがわしの全財産じゃ。そいつは不思議な力を持っておる。人の弱みを見分けることができるのじゃ。そのうえ持ち主を大金持ちにし、敵をやっつける力を持っておる。おまえさんにそいつを譲ろう。今日からおまえさんは、わしに代わってモンテ・クリスト伯爵になるのじゃ。

神父が初代モンテ・クリスト伯爵だったのかい!
しかもこのエメラルド、あまりに効果が凄いうえにマルチすぎて、実にわけがわからんがとにかく凄い指輪なのだった。
なんかこう…伯爵は伯爵でも、カリオストロとか、サン・ジェルマンとか、そういう名前だったんじゃないんですか…神父さん…
そしてそんな風に世襲できてしまうとは、「モンテ・クリスト伯爵」って、タイガーマスクか何かと同類みたいな。

指輪の説明を終えると、神父は息絶えてしまう。

こうしてエドモンとファリア神父は、出会ったその日に死に別れ、奇跡のオカルト遺産を相続することになったのだった。
なんだこの話。
そのあと、ファリア神父と入れ替わって死体袋に入り、夜の海に投げ込まれるところは原作通り。

「ついにやったぞ!エドモン・ダンテスは、これで自由だーー!」

それはいいとして、縛られた袋からどうやって脱出したかはまるで不明。
指輪を掲げているところをみると、それも指輪の力なのか?どれだけ万能なんだソレ。

とにもかくにも、おそらくは多くの視聴者に、エドモンより神父のインパクトを強く残したままに、「シャトー・ディフ編」は終了。
この後はまた10年の間をおいて、いよいよモンテ・クリスト伯(2代目)がパリに登場します。続きをどうぞ。
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