東君平の世界
今回はいつになく「これが好き!」というだけの話に終始してしまうのだけれども、お許しいただきたい。って、いつものことか。
この稿で取り上げる「東君平(ひがし・くんぺい)」さんという方を紹介するとき、ちょっと言葉に困る。
彼の作品展開のメインは間違いなくイラストレーションなのだけれども、1974年に「イラストレーター廃業宣言(「週刊文春」誌上にて)」を行っているから、イラストレーターと定義づけるわけにもいかない。
しかも作品群は、実は全て色紙をカッターで切り抜いて制作されている。
かといって、「切り絵画家」と呼ばれるのも嫌がっていたと言うし、何より多くの詩作・絵本・エッセイなどをものしていて活動範囲がマルチなこともあって、本当に一つの言葉ではくくりがたい、不思議な方だった。
君平さんは、1975年頃に読売新聞の付録小冊子である「読売家庭版(集金の際に集金人が配布する小冊子。内容は家庭・主婦向けのものが多い)」の特集記事の挿し絵を1年間担当した。
私がその絵の世界に一度で参ってしまったのはそれがきっかけだった。
単純で奥深い線、それに料理などの内容なのに人だけにとどまらず犬やら猫やらの動物が登場するのが楽しくてならなかった。いっぺんにコアなファンになってしまい、毎月の集金を待ちこがれた。
多分、あの時日本で一番「読売家庭版」を心待ちにしていた幼児だったに違いない。
その12冊の冊子は随分古ぼけてしまったが、今でも実家に保管してある(・・・はず)。
動物キャラも可愛いのだが、「人」の描き方がまた絶妙で好きだった。特に横を向いた鼻の可愛らしさは何度見ても絶妙だと思う。
小学校に上がると、君平さんの絵本や児童書が数冊図書館に入っていて、感激して貪り読んだ。
また70〜80年代前半には様々な広告デザインにも登場し、思いがけないところで出会うたびに嬉しかったものだ。
左のパッケージ写真は、矢野顕子の歌が印象的だった「ラーメンたべたい」のパッケージ。
君平さんは残念ながら昭和61年に46歳の若さでこの世を去られている。
もう新しい作品は増えないのだと思うと、本当に淋しかった。
現在ではシルクスクリーンやグッズ類、また毎年カレンダーが流通している。うちの今年の今のカレンダーは君平さんのカラーのものだ。毎日見ては和んでいる。
左のリンクは、英子夫人が切り盛りする「くんぺい童話館」の公式サイトへのもの。
同館は山梨県巨摩郡小渕沢、八ヶ岳の麓にある小さな別荘を改築したもの。英子夫人が出迎えてくれ、貴重な作品が見れるだけでなく、グッズや現在入手困難な著書も購入できるという。一度は行ってみたいと切望しているのだが、山梨はあまりに遠くて未だに夢を果たせずにいる。
同サイトでは、初の絵本「びりびり」をデジタルアニメーション加工したものなども見ることが出来る。
君平さんの詩やショートストーリーはどれも優しい味があって好きなのだが、一番好きなのは詩集「紅茶の時間」のあとがき。何もてらいのない文だけれど、リズムと響きのシンプルさが心地いい。そして、君平さんの生き方そのものをかいま見たような気になれて、とても心に残る文だと思う。
ヒトニ アッタラ
ハナシテミヨウ
モノガ アッタラ
テニトロウ
ハナガ サイタラ
ホメテアゲヨウ
カゼガ フイタラ
フカレヨウ
ホンガ アッタラ
ヒライテミヨウ
ジカンガ アッタラ
カンガエヨウ
カミガ アッタラ
ナニカヲ カコウ
エンガ アッタラ
マタアオウ。
この「紅茶の時間」の初版は1976年。私が持っているのは1989年の再版もので、もうなくなってしまわれた後だった。最後の「エンガ アッタラ マタアオウ。」のフレーズが、どこまでも深く響いた。
(2001.4.21)