ザ・300円岩窟王(その3)

さあ、いよいよ物語は、別物度を極めつつクライマックスへなだれ込みます。


日を改めて別の晩。オペラ座に上流階級の人々が集まる。
高級な桟敷に向かい合って座る伯爵とモンデゴ一家。隣に亭主がいるのにニヨニヨと視線のレーザービームを交わしあうメルセデスと伯爵の様子に、当然モンデゴは面白くない。

オペラの幕間。長い休憩時間の間、人々はワインを片手にしばし談笑を楽しむのが通例だった。
「例のルイジアナ鉄道の投資の件ですが…」と上機嫌で話しかけてくるダングラール。
儲かるはずだったんだが今日暴落してしまって、すぐに売り抜けたからいいもののそうでなければ危なかった」という伯爵の答えに青くなるダングラール。
「というのは、ルイジアナ鉄道の話自体根も葉もないデタラメだったからもう証券は紙切れ同然。いや〜誰がそんなガセネタを流したんだろうねえ〜?全財産溶かした負け犬もいるそうだけどねえ」と、「お前の全財産なんかしらねー、くそして寝ろ」と言わんばかりにたたみかける伯爵。
最初に儲けさせて信頼させたのも、すべてはこの架空投資に全財産をつぎ込んだダングラールを完全破産させるための罠だったのだ。
再びオペラ座の幕が上がる。
何度となくたしなめても目と目でイチャイチャをやめようとしない二人に、ついにモンデゴが切れ、伯爵の桟敷に乗り込む。客観的に無理もない…というか、どう見ても自重しない中年バカップルが大人げないだろこれ。
モンデゴ「この…人を馬鹿にしやがって!決闘を申し込む!」(ちなみに特に手袋は投げず)
伯爵「受けて立とう!この幕が終わったらすぐに決闘をはじめよう!」
さすが50分1本勝負は話が早い。


一方、エメラルドの指輪に魅せられてブゾーニ神父を追ってきたカドルッスもこの日のオペラ座に入り込んでいた。
失意で呆けるダングラールに、神父=伯爵であること、そしてエドモンとの関係を示唆した。
ダングラールはエメラルドの存在を思い出し、桟敷にいるヴァランティーヌから無理にエメラルドを奪い、ついでに彼女を連れ去ろうとする。
その時母であるメルセデスはどこにいたのかというと…
いつの間にか伯爵の桟敷に移動して、昔の男の獄中の話と復讐の決意とかに集中してました。ホントいい加減にしなさいおまえら。
今はメルセデスの夫であるモンデゴだが、許すわけにはいかないとキッパリという伯爵に、「命だけは助けてあげてほしい」と嘆願するメルセデス。
そんな中、向かいの桟敷であがったヴァランティーヌの悲鳴に彼女の危機を知り、急いで救出に向かう伯爵。すぐ向かいなんだからさっさと気付け。
さてこの後は、とらわれたヴァランティーヌを助け、モンデゴと決闘し、エメラルドも回収しなくちゃね!忙しい忙しい。でもコレ、ほんとに何の話なんだ???

娘の危機を知ったモンデゴは、馬でダングラールの馬車を追い、事務所の前で追いつく。
「娘を離せ!」と勇ましく仕込杖を抜くモンデゴ。ここだけちょっと主役っぽい。頑張れお父さん。
ダングラールは、「それより、あの世からよみがえった男に妻をとられてもいいのかい?…エドモン・ダンテスにな!!」と伯爵の正体を暴露する。


そしてそれに驚く暇もなく、ダングラールの拳銃で撃たれて死んでしまう
その瞬間の描写が、ただモンデゴのアップのまま、撃鉄の「カチッ」→銃声が「バーン」という非常に緊迫のない演出なのがどうにも低予算…というか手抜き風味でたまらん(だいたい、ダングラールが出したのが拳銃だとはっきり分かるカットがないので、「えっ今何が起こった?」という感じなわけです。)
コマ送りにするとこう。
ヴァランティーヌ、倒れた父親に駆け寄る。
「ひどいわ、なぜこんなことを…!」
確かにひどい。いろんな意味で。

ダングラールは惨劇を尻目に、もはやヴァランティーヌすらどうでもよくなって、再び手に戻った「ねんがんのエメラルド」をミヨミヨ言わせて高笑い。
しかし……


ドスッ!という音ともに、「ぐわぁぁぁー!」と倒れてしまう。
視聴者は2度めのおいてけぼり状態。
するとそこでほくそ笑むのはナイフを構えたカドルッス。もうこの雪崩式カオスは止まりません。
「カドルッスさまは大金持ちだー!」と高笑い。


浮かれまくって通りに躍り出たところを

ヴァランティーヌとダングラールを追って全速力で走ってきた伯爵の馬車に轢かれます。
「うわぁーーー!」
「キャーーーー!」
ドォォーン

なんだその無理矢理な殺し方。

こうして伯爵の復讐は終わりました……って、あれ?少なくとも最後のとどめに関しては、伯爵何もしてなくね?
そして、カドルッスは確かに欲に目がくらみはしたけれど、エドモン事件については傍観者で、殺されるほどのことはないんじゃね?(おかしくなったのはエメラルドを見たから)
そんな疑問をよそにディスクはラストシーンへ。だってもうエンディング入れて3分しかないんだもん。

翌日。
自分の目の前で、父親含め3人に立て続けに死なれたヴァランティーヌはショックを隠せず、母の胸で泣き続ける。そりゃそーだ、普通ならPTSDもんだ。
メルセデス「なんて悲しい1日だったのかしら…」
まあその、モンデゴが死んだのはあんたがイチャコラ自重しなかったせいもあるんだけどな!(結局決闘できなかったけど)
伯爵「私の復讐は終わったんだ…すべて、これのおかげだ。」
ほんとに、最後に仕事したのはエメラルドだけだったよな。

とエメラルドを取り出し、そのままセーヌ川に投げ捨てる。
エメラルドは、バブのごとくシュワシュワと泡をたてて溶けるような表現とともに水底に沈んでいく。すげえ不吉。
結局この呪われた宝石は一体なんだったんだ。
「これからどうしたらいいの?」と至極もっともな不安を口にするヴァレンティーヌ。
「私の心をいやしてくれたように、時がすべてを解決してくれる。」二人に寄り添って、手を取る伯爵。
「希望を持つんだ。望みを捨てては、いけないよ。」
カメラが引き、パリの遠景が映し出されて「END」。
一見なんかいいこと言ってる(というか、あの「待て、しかして希望せよ」を強引に持ってきただけというか)風で、何も具体的なことを示していない伯爵。



そんなわけで終幕。
「モンテ・クリスト伯」ファンのみなさん、この「別物劇場」お楽しみいただけましたでしょうか。
このDVDは現在も絶賛発売中なので、ネタ物件やツッコミ好きの方は手元に置いて実際の脱力具合を確認してみられてはどうでしょうか。
なかなか静止画と説明だけでは、ヘタレた画面や動画の具合までは伝えきれないものです。
今日び、300円ではコーヒーもなかなか飲めないご時世です。300円だと思えば、ご立腹のあまりディスクを割るもよし、ベランダにつるして鳥よけにするもよし、何の惜しげもなく一度見て処分できる価格も魅力です。

その一方、児童書もあまり名作系は受けず、ラノベや即席ファンタジー系のものばかりが幅を利かせる昨今、子供どころかその親もあらすじを知らぬまま、このDVDを見て「岩窟王?…ああ、あの変な宝石でみんなおかしくなる話でしょ?」と誤った認識が広まってしまう可能性があるのはどうしてもモゴモゴした思いが残りますね。
もしこれからそういうとぼけたことを抜かす人に出会ったら、「ああ、この人はファーストコンタクトが300円DVDだった可哀想な人なのだな」ということで、そっとしておくもよし、本当の魅力を伝道するもよし。いずれにせよびっくりしなくてもすむでしょう。逆にいえばそのくらいしかメリットないのですが。

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