第四回 美食家ノ食単、炎ノ如シ

原典:「隋園食単」(ずいえんしょくたん)

全一巻。清の袁枚の著。乾隆帝の時代・1972年の刊行。
料理法を記した書。「料理界の論語」と呼ばれ親しまれた。
「随園」とは彼の邸宅の名で、文雅の士で江南に遊ぶものは必ず随園を訪れ、袁枚もこれを厚くもてなして酒の会合を催した。
その随園におけるぜいたくな生活や、また彼が各地を遊歴した経験から、その見聞した料理法を記した書で、須知単(予備知識)・戒単(注意事項)に始まって、海産物・川魚・豚肉・獣類・鳥類・点心の料理法や、おかゆ・おやつなどの作り方が述べられている。
当時の中国料理のあり方を知るうえで貴重であり、また、美食家であった袁枚の晩年の記録として興味深いものである。

「単」とは「メモ・覚書」の意。
本書序文では「誰かの家でご馳走になった後、必ず使用人を遣わし、弟子入りさせて学ばせ、その料理法についてくまなく書き記して保存した」とある。レシピの多くには、「××県の●●家の料理」と併記し、その家の主人と料理人に敬意を表した。
戯れに袁枚を批判した趙翼の文によれば、料理人相手に大金のチップを積んでレシピを買い上げたものもあれば、家の主人に頭を下げて教えを乞うたものもあったという。
いずれにせよ、著者の尋常ならざる美食への探求を窺い知ることが出来る。

主な和訳:岩波文庫「随園食単」(訳注:青木正児)
*芙蓉肉(海老と豚の重ね揚げ)

豚赤身肉 1斤=600g
清醤(中国の濃い醤油) 適宜
えび 40尾
万能ネギ 適宜
白酒(中国の焼酎) 盃1杯
醤(醤油) 盃1杯
鶏スープ 茶碗1杯
山椒 適宜
蒸粉(米の粉=上新粉) 適宜
豚の脂身 適宜
食用油 半斤=300g(油通し分を含んだ分量だが、多めに用意するとよい)

(「随園食単」では、第五部「豚肉の部」の21個目のレシピとして掲載されている)

青木訳の訳注では
「おそらく海老の肉の美しいのを芙蓉の花に例えたのであろう」とある。
詳しくは岩波文庫版の92ページを参照されたし。
袁枚(えんばい)
1716−1797
字は子才、号は簡斎。
浙江省の人で詩文に優れ、性善説を唱え、格調説を説く沈徳潜と並んで、清朝文壇の一方の雄であった。
三十七歳で官を辞し南京の近くの小倉山で趣味の生活を送った。任官中に購入したというその邸宅の名にちなんで「随園先生」とも呼ばれる。
辞職後は、文人・詩人として名をなし、売文によって財産を築き、豪奢で趣味三昧の生活をしたといわれる。
代表著書に「小倉山房集」「随園詩話」など。
満州族の王朝である清の料理にちなみ、いきなり弁髪ヅラで登場する金さん。
「どお?似合う〜?」弁髪をグルングルン回して大喜び。
いつものセリフを喋るにも一つ一つカンフー風のポーズを決めてアドレナリン出まくり。ご本人の脳内ではきっと、今日の金萬福はリー・リン・チェイやブルース・リーなどのアクションスターになりきっている設定だと思いますが、一般的な日本人であれば、ラーメンマンを飛び越して「永井豪の「超マン」のコスプレ」を想起することでしょう。

金さん「今日の料理は、今度こそ今夜の夕食のメインディッシュに使えるメニューを選びましたよー!」
やっぱり金さんも、「あらこんな所に羊の肺が 松の実松の実あったわね」というようなご家庭は日本には少ないという事実には気がついておられたようですね(前回参照)。

豚赤身肉(モモ肉あたりが妥当かな?)を薄く削ぎ切りにしてバットに並べます。大体、開いたエビと同じような大きさが目安だそうです。
後でエビとくっつけますから、用意したエビの数と同じになるように切るといいでしょう。
金さん「何かを塗るって書いてあるけど、これってなーに?李ーさーーん!」
ここで当時の調味料に関する李さんの解説が入ります。
李さん「清醤や。たまり醤油みたいな濃ーーい醤油やね。醤油が発明されたのは一つ前の明の時代。これをきっかけに、それまでの醤・つまり味噌中心の調味から、醤油の味付けに代わった時代やったんや。中国四千年の歴史は、調味料の変化の歴史でもあるんやなー。」
清醤を肉の両側に指で塗り、網の上に置きます。日本ではたまり醤油や刺身用の特濃醤油で代用すればいいのでしょうかね。
文献には、「これを2時間ほど風干しする」とあります(ラップなしで冷蔵庫に入れて2時間で代用できそうです)。

金さん「それでは2時間待つ間、私の華麗なるカンフーアクションでお楽しみください。料理人は、体力が、命だーーーッ!!
そして、こんなときに流れる音楽といえばアレに決まってます、アレです。

♪ジャーーーーーーン ジャジャッ♪
金さん「ハウォ、チョアーーッ!」
♪ジャーーーーーーン ジャジャッ♪
金さん「ファチャーー(正確な文字表記不可能)!!!」
♪チャーンチャーンチャーン ジャララーン(ジャカジャカジャカジャカ)ジャジャン ジャーン♪
この後(「♪ミョーンミョンミョーンミョーン」以降)の2時間にわたるアクションは無粋なNHKによって残念ながらカットされてしまいましたが、それでも中国人民は熱狂のスタンディングオベーションで金さんのアクションを称えるのでした。

まさか、「豚肉を風干しする」という作業一つで、金シェフの怪鳥音を聞けるとは思いませんでした。
この瞬間、金さんのパフォーマンスはグラハム・カーを(ある意味)超えたような気がします。

楽しい時間はあっというまに経過してしまうのが人間というものです。
「私の華麗なカンフーアクションに皆さんが魅了されている間に、あっというまに2時間がたちました。」

金さんが2時間に渡ってカンフーアクションを披露してくれた間に豚肉はいい感じに表面が少し乾き、醤油がしみこんだ感じになりました。

次に海老です。レシピには新鮮であればあるほどよいとあるので、蓋を開けるといきなり活きのマキエビが跳ねてます。大きさといい色といいとても美味しそうです。全く、金がかかってるのかかかってないのか今ひとつよく分からん番組ですね。
その活きエビの頭を取り、背中から切り離さないように包丁を入れ、殻を取り去ってボタンに開きます。
先ほど風干しした豚肉の上に、サイコロ状に切った豚の脂を2個ほど置き、上にエビを置いて、包丁を寝かせて叩きます。これで脂が接着剤になり、エビと豚がくっつくのだそうです。
脂を代用するのであればラードになるのでしょうか。でもラードだと緩そう…忠実にやるなら、豚バラブロックから油の部分を切り出すのがいいのでしょうかね?

これを、まず湯通しします。油は180度に熱しておきます。
中華なべにたっぷりの湯をグラグラと沸かし、今作ったエビ豚を合わせたものを入れ、浮き上がってきた頃合でジャーレンですくい上げます。
それにしても、この「豚の脂接着」が意外にちゃんと効いていて感心します。
今度は材料を油通しします。
このときジャーレンは、湯の温度を下げないための配慮か、あらかじめ別鍋の上において熱してあります。
何を思ったか(というか何も考えてないんだろうけど)、その熱いジャーレンを素手で触ってしまい、「アッツーーー(日本語)!!」と叫び硬直し、思わず「素」に戻ってしまう金さんです。手を冷やして気を取り直し、材料はジャーレンに並べて油を入れた中華鍋の上に持ち、お玉で何回か油を満遍なくかけまわして油通しをします。完全に揚げる必要はなく、全体に油が回りしっとりする感じを目安にします。
油通しが終わったら、使った油は別鍋やオイルポットに開けます(別の炒め物などに使えますので捨てる必要はありません)。
鍋肌に残った油で、次の炒めの手順に入れます。

金さん「李ーさーーん、次はどうするんだっけー?今のショックで忘れちゃったよーー
李さん「そら味付けせんと
いつだって李さんはクールで的確ですね。今回は食材も調味料も一般的なものなので、ちょっと出番が少なくて寂しそうです。
金さん「味付けのタレはどうなってるんだっけ?」
李さん「酒…中国の焼酎・白酒(パイチュウ)盃1杯・醤、つまり醤油が盃1杯、鶏スープが茶碗1杯。そういう風に書いてはる。」
ということで、先ほどの中華鍋を熱し、白酒・醤油・鶏スープを入れて合わせ、沸いたところで先ほどの豚+エビを入れて、ぶつ切りにした万能ネギとひき潰した山椒を加え、あとは鍋を景気よく回して、絡めるように炒めます。すでに加熱は済んでいるので、炒めすぎて材料が固くならないようにしたほうがよいでしょう。
最後、上から米粉(スーパーなどでは「上新粉」という名前で売られてると思います)を振りかけて炒め合わせ(これがトロミになります)、出来上がり。

おお、これはマジで美味しそうです。豚とエビ。まずかろうはずがない。ご飯に合いそうです。
あまりに美味そう&味の予想がつく料理なのでこれといったツッコミどころもないのが悔しいですが、これは自分でも作ってみたくなりますね。

「清のグルメ文人が書き記した芙蓉肉、200年の時を越えて今ここにふっかーつ(ジョワワーン)!!」
金シェフの試食。弁髪がちょっと邪魔そうです。
「んーーー!!これね、これまでで一番美味しいですヨ!いっけーる!」
金さん金さん、最終回だからといってこれまでの料理を否定するようなことを平気で言わないように。
「これを食べれば貴方もスーパーグルメ気分になること間違いなし!」
そしてこれで最後なので、別れを惜しんで金さんの投げキッスでシメ。

うーーん、これがたったの4回なんて本当にもったいないです!NHKさん、是非続編&長期放映を望みます!!