ヨード基礎知識

正式名称 ヨウ素(Iodine<英>)
分子式  I (ハロゲン族)
原子番号 53
発見 1811年、フランスのクールトアが、海藻類を焼いた灰から発見した
科学的性質 黒紫色の金属光沢のある板状結晶・昇華性
沸点 : 1845℃/融点 : 113.5℃/比重 : 4.93
水に微溶(20℃ 0.029g/100g)/ヨウ化カリウム溶液に可溶/エタノール・エーテル・クロロホルム等に易溶 
説明 甲状腺ホルモンの原料となる大切なミネラル。体内で合成は出来ないので、食物から摂取しなければならない。
海藻などを食べて取り込んだヨードは、消化管を経て血液中に入り、血液から甲状腺の細胞に取り込まれる。
市場価格 4300円(500g・1級試薬) 950円(25g・特級試薬)
取り扱い注意事項 劇物・毒性
蒸気は、多くの金属と反応し又、有害である。
皮膚に付着・目に入った場合、激しく刺激腐食し炎症を起こす。 
副作用および中毒症状 (ヨードチンキの場合)
http://www.maruishi-pharm.co.jp/data/k008/参照
致死量 フリーのヨードとして2〜4g、ヨードチンキで約30〜250mL(成人)とされている。
・世界のヨード生産シェア
国名 生産量(t) 構成比(%)
チリ 9,430 52.8
日本 6,790 38.0
アメリカ 1,650 1.8
17,870 100.0
(日本は二位。1995年までは1位だったが、
急成長したチリに1996年抜かれた。)
・日本のヨード生産シェア
県名 生産量(t) 構成比(%)
千葉県 5,893 86.8
新潟県 775 11.4
宮崎県 122 1.8
6,790 100.0
(国内業者は8社)

(資料は平成9年のもの)

現代のヨード製造法

 前述の通り、かつては海藻灰からの精製が行われていましたが、技術が向上したことにより、現在の日本では天然ガスと一緒に採取される「かん水」の中にヨードがたくさん含まれているため、そのかん水からヨードを取り出しています(追い出し法)。イオン交換樹脂法という方式も用いられているそうです。
 千葉県のシェアが圧倒的に高いのは、天然ガスの採取量が多いためです。
 チリでは、「亜硫酸法」が用いられています。これは、硝石(肥料や火薬の原料となる鉱物)副産物しとて生産する方法です。

 ヨードチンキを電気分解してもヨードが得られます。電極には炭素棒を使用します。


暮らしの中のヨード

『今の世の中じゃ、「好日」の時代ほどの需要はないんじゃない?』とイメージしがちですが、実はこんなに利用されています。

●医療
・ヨード欠乏症治療薬品
・バセドウ氏病・甲状腺がん等治療薬品
・CTスキャン造影剤
・消毒薬(ヨードチンキ・ポピドンヨード)
・口腔洗浄剤(うがい薬・ルゴール・のどスプレー)
・一部の感冒薬
・ヨードシャンプー(獣医科用)
●化学方面
・写真薬(フィルムの感光乳剤)
・洗剤
・除草剤
・肥料
・偏光サングラスの皮膜
・実験用ヨウ素液
・防カビ剤
●飼料
・養鶏用(ヨード卵光は有名)
・愛玩小鳥用(補助飼料のボレー粉など)

用途の内訳は次のようになっています。(1998年度推定需要)

レントゲン造影剤 22%
殺菌・防カビ剤 20%
反応触媒 19%
医薬品 16%
飼料添加剤 9%
除草剤 4%
写真薬 2%
その他 8%

ヨードを含む食品

 先ほど述べたように、ヨードは体内で作ることが出来ませんので、食物からのみ摂取可能です。
 以下にヨードを含む主な食品をあげていきます

●海藻類と昆布類加工品(含有率が高い)
・コンブ、ワカメ、ヒジキ、モズク、天草など
・焼き海苔、生のり、海苔の佃煮
・天草加工品→寒天、ところてん、羊羹、その他寒天使用食品
・昆布加工品→佃煮、おぼろ昆布、昆布茶
・昆布だし汁、昆布エキス→うまみ調味料、ダシのもと、各種合わせ調味料、インスタント味噌汁、だし入り醤油・味噌
●回遊魚類、貝・エビ類
・たら(特に豊富)→干したら、魚肉練り製品(かまぼこ、はんぺん、ちくわ等)
貝、エビ→関連加工物
・青魚
 (さば・いわし・かつお・ぶり・にしん)
・赤魚
 (まぐろ・さけ・ます)
  →上記魚介類の加工品、缶詰、ツナ缶詰
●岩塩でない塩
・海水から作った塩(日本で一般的な塩)
・ヨード添加塩(ヨーロッパなどで流通)
●その他
・牛乳
・ヨード卵
●意外なもの
・清涼飲料水(十六茶・アクエリアスに確認)
  昆布エキスが含まれているため。
・加工ヨーグルト
  甘味の加えられたヨーグルトの一部には、とろみを出すために寒天が添加されているものがある
・その他昆布エキス、うまみ調味料の入ったもの
  もはや日本では入っていないものを探すのが困難な状況。インスタント味噌汁やポン酢、各種タレ類は勿論、カップラーメンやスナック類にも。
・ヨード塩を含む外国食材
  ヨーロッパなどの内陸国では、一般に岩塩を使用する。しかし岩塩にはヨードが含まれていないのに合わせ、日本と違って海藻を日常的に摂取する食習慣が乏しいため、深刻なヨード欠乏症に陥りやすい(モンゴルやアルプスなどが有名)。そのためヨード含有塩が一般に流通し、使用されるようになってきた。だから塩分を多く含む食品には(サラミ・ベーコン・ソーセージ・ポテトチップスなど)微量のヨードが含まれている場合が多い。

 成人の一日の必要無機ヨード量は100〜150μg(マイクログラム)です。
 ご存知の通り日本人は、ダシや料理の中で日常的に海藻を摂取しているので、よほど偏食していない限りヨード欠乏の心配はありません。
 含有率が最も多いのは海藻、またはそのエキスなのですが、味噌汁一杯に3000μg、昆布の佃煮を2、3枚食べたら15000μgものヨードを摂取したことになるということです。
 しかも前述したように、知らないうちに調味料類からも摂取していますから、ことさらに意識して摂取に努めることはないといえるでしょう。

 心配するとしたら、摂取しすぎ(急激だと一時的に甲状腺の調子が悪くなる人もいる)の方ですが、先天的な体質の問題がないのなら、急激に大量摂取しなければ気にする必要はないようです。
 甲状腺関連の既往症がなければ、シャカリキになることも、逆に怖れる必要もないといえるでしょう。

(例外:ただし妊娠中の方は、胎児に過剰なヨードが行かないよう、医薬品を通じての吸収などにも気をつけなければなりませんし、離乳前の赤ちゃんへの与え方にも配慮が必要です。
 また、放射性ヨードによる甲状腺がん・バセドウ氏病などの治療に当っている方は、正しい検査を行うため、また放射性ヨードの摂取が阻害されないために、ヨード摂取を制限しなければならない場面があります。)

 ヨードの吸収を阻害する物質もあります。
 一つは、これも健康増進に注目される「大豆サポニン」で、大豆や豆腐などに含まれます。
 豆腐をよく食べる沖縄では、料理に昆布を合わせる事が多いのですが、豆腐で吸収阻害された分のヨードを昆布で摂取するということになり、まことに理にかなっているといえるでしょう。
 もう一つは、キャベツなどのアブラナ科に含まれるるチオ-オキサゾリジンという物質です。特に小鳥などに与えたためにヨードによる治療が進まなくなるという例があるようです。